静岡の地元情報が集まる口コミサイト:eしずおか

静岡時代 シズオカガクセイ的新聞

特集

モラトリアム思考論〜モラトリアムの男脳、女脳〜【3/4】

静岡時代12月号(vol.37)巻頭特集:モラトリアムの男脳、女脳【3/4】
モラトリアム時期における人間関係や将来にたいする葛藤や迷いは人それぞれのせいか、定義づけすることは中々難しい。でも、「こうしたほうがいい」「男はこうして、女はこうする」といった、HOW TOやハッキリした答えがあれば、悩みは軽くなっていく気がする。今だからこそ、私たち大学生が考える事って? モラトリアムに男女の差はあるの? 今回は、静岡県立大学の武田厚司先生に、人の成長過程を通して紐解くモラトリアムの定義をお伺いしました。


モラトリアム思考論〜モラトリアムの男脳、女脳〜【3/4】

■武田厚司(たけだあつし)先生〈写真:右〉
静岡県立大学薬学部薬科学科教授。
神経科学や生理学を専門に研究している。幼少期のトラウマで人前で話すのが未だに苦手だそう。しかし、学生が楽しめる授業にするための努力を惜しまず、自分の授業には自信があるという学生想いな先生でした。

[聞き手]
■木下莉那(きしたりな)〈写真:左〉
常葉大学大学4年(取材当時)。本誌編集長。
大学卒業後、現在は就職先の東京で新しいスタートを切っています。

■山口奈那子(やまぐちななこ)
常葉大学3年(取材当時)。本誌副編集長。
本記事、執筆担当。現在は就活の真っただ中。


モラトリアム思考論〜モラトリアムの男脳、女脳〜【3/4】

◉男女の差というよりも家族や社会の影響

(静岡時代)生物学からみて、モラトリアムにおける男女の性差、成長過程に違いはあるのでしょうか?
 
(武田先生)生物学に限らず、一般的に見て男性と女性でモラトリアムの違いはそんなにないと思っています。ただ、男性と女性で違いがあるとしたら、生理的な体のつくりの違いが多少は関係しているかもしれません。例えば、大学を卒業するまでの期間で人生について考えたり、母親になるということを強く意識したりするのは女性ですよね。男女の決定的な違いはやはり「出産」。出産は女性にしかできない必然的な運命です。

その点では、最近、20代や30代で出産する人が多いけど、出産期のことを考えて自分の人生設計を考えることは普通のことだと思います。女性が20代、30代手前となる大学時代に、将来について不安を抱く傾向は強いでしょうね。一方、男性は「家族を持って父親になるかも」っていう仮定だけで終わるんです。出産がない分、男性はあまり深く考えないから将来についてあまり焦る姿がみられないのかもしれません。

(静岡時代)女性である私からしたら、焦りが全く感じられない男性が理解できませんでした。
 
(武田先生)置かれている環境は男女で違ってきますね。将来とるべき選択肢は、女性と男性では、家庭のなかで頑張るのか、それともお金を稼いで家族を支えるのかという異なる意識がお互いに働くかもしれません。ただ、念を押しておきたいのは、それは生理的な生態の男性と女性の違いではなくて、性別上の運命という話。結局はそれを各々がどう捉えるかなんです。確かに女性は、結婚のことを考えて将来を焦ってしまう人もいると思うけど、全員がそうではない。男性も同じですよ。いい人がいたら父親になりたいと思うし、夫・父親という立場で家族をもって支えていかなくてはならない時期は来ます。
 
また、女性だからといって男性ホルモンが作られていないわけではなく、男性も女性も両方を持ち合わせています。量的なバランスの問題です。男性ホルモンがたくさん分泌されていたら男性的になるかもしれないし、女性ホルモンがたくさん分泌されていたら女性的になるかもしれない。だから性差というよりも結局は、自分というのは社会によって変わっていくものだと思うんですよ。

モラトリアム思考論〜モラトリアムの男脳、女脳〜【3/4】

(静岡時代)どういうことですか?

(武田先生)自分というものを見出すうえで、選定的なものはかなり大きいと思います。まず挙げられるのは親の影響ですね。避けられないものですし、そこで考え方がある程度出来上がっているはずです。小学校、中学校の頃には、人格は家庭環境で大半の人が決まっているでしょうね。人に言われてもなかなか変わらない。変わる人ももちろんいますけどね。
 
変えられるとしたら、それが社会です。学校やアルバイト、趣味でもいいです。社会と触れ合って自分の考え方に影響を与えるような人との巡り合わせや環境があることで、自分は変わっていくのだと思います。ただ、それは誰かが教えてくれるものではない。
 
重要なのは、自分がどう思えるか。大学であれば、そこで自分が見えていないものを見れて、興味をもてるかどうかなんですよ。大学に限らず、学校へ行くということは、家族だけじゃない社会へ出ていくということ。自分が試されて成長させられる場です。大学を出るまでは同じことの繰り返し。モラトリアムのはじまりは大学ではなくて、学生時代はすべてが自分の将来について考えるはじまりだと思います。

◉社会へ出れば位置づけなんて変わっていく。思考力が重要。

(静岡時代)確かに、私たちはモラトリアムを社会に求めます。これまで家族内の自分でなんの問題もなかったのに、いつからか大学という社会的な場所に自分の居場所はつくれるのか思い悩んでいます。もちろん卒業後も心配です。
 
(武田先生)実は私は大学生の頃、お荷物学生だったんですよ。静岡薬科大学出身でね、研究室も友達が多くて楽な研究室を選びました。不純でしょう?4年になって就活をして、あまり勉強もしないまま製薬会社に受かってしまった。その時にふと、「自分は面接も駄目だったし、試験もできなかったのに、このまま社会に出てやっていけるのかな?」って思ったんですよ。社会でちゃんとやっていく上で、「人とは違うものがないと勝負にならないじゃん?」と、そういうものを感じたんでしょうね。それで大学院に進んだんです。それが私の人生の転機。研究生をやっていた時から変わらないといけないので頑張りましたよ。だから、最初から自分で考えてたわけではないんです。周りの影響力はすごいですよ。

モラトリアム思考論〜モラトリアムの男脳、女脳〜【3/4】

(静岡時代)武田先生は大きく人生が変わったんですね。モラトリアムから抜け出して、「わたし」を確立するためには具体的にどうすればよいでしょう?
 
(武田先生)世の中だいたい同じようにチャンスはあります。人間、知らない間に試されて成長していくものです。自分で見える視野を広げていくことが重要。モラトリアムのなかで、どれだけそのチャンスに気づけるか・掴めるかの分かれ道は、思考力にあるんじゃないかな?問題をどう発展的に考えられるか。そこに男女の差はないと思います。
 
しかし、残念ながら多くの人は気づかないですし、将来について深く考えられない学生は、圧倒的に多いです。だから、研究室で実験をして、自分のスキルを磨いていくわけ。でも、将来その人たちが研究を続けるかはわからない。やってもやらなくてもいいんだけど、その研究を通じて、どこに問題があって、どうやったら解決できるか。自分で自分を磨き上げる重要な訓練期間が研究室です。その結果、研究が好きなら研究者になればいい。

だから、最終的には何をやってもいいわけです。自分のやりたいことを明確にして、その中でできる人間になればね。研究も壁にぶつかったら、それはやり方がまずいのか、考え方がまずいのか、そういうことを自分で考えることができるかが重要です。富士山を5合目で見るのと、遠くから見るの、頂上から見るのとでは見える景色も見栄えも違います。つまり自分の立場によって、物の見え方が違うということです。

モラトリアム思考論〜モラトリアムの男脳、女脳〜【3/4】

 特に社会に出れば、位置づけはどんどん変わっていきます。そうして色んなところから景色が見られるようになればいいですよね。そのためにはやっぱり自分のスキルを磨いて、思考力を身につけること。私も大学4年間を過ごして思うけど「分からない」ということが大学生活だと思います。そういう状況から抜け出したいと思う人は、自分の好きなことや興味があることをいち早くみつけることです。早ければ早いほど成功する可能性も高いよ。そうすれば目標が定まってやるでしょう?その時、自分が積極的にできるか、言われたことをやっているかで、それが本当の自分なのか分かるはずですよ(了)
(取材・文/山口奈那子)



モラトリアムの男脳、女脳シリーズ
【1】モラトリアムって一体なんだ?→ http://gakuseinews.eshizuoka.jp/e1479019.html
【2】"大学モラトリアム"の歴史とは?→ http://gakuseinews.eshizuoka.jp/e1479882.html



同じカテゴリー(特集)の記事画像
新しい音楽の創り方〜静岡時代24号『静岡時代の、音楽論』より
今開かれる、静岡パンドラの箱!〜静岡時代12号『静岡魔界探訪』より
静岡時代を残す人【静岡県立中央図書館】〜静岡時代創刊10年記念号「静岡時代ベスト版」
禅問答のように難解な物語の紡ぎ方〜静岡時代42号「静岡時代の未来予測」より
文学が先か?音楽が先か?「音」から育てる物語〜静岡時代42号「静岡時代の未来予測」〜
使われるかもしれない“いつか”のためにアーカイブする〜静岡時代42号「静岡時代の未来予測」より
同じカテゴリー(特集)の記事
 新しい音楽の創り方〜静岡時代24号『静岡時代の、音楽論』より (2016-06-14 00:00)
 今開かれる、静岡パンドラの箱!〜静岡時代12号『静岡魔界探訪』より (2016-06-07 00:00)
 静岡時代を残す人【静岡県立中央図書館】〜静岡時代創刊10年記念号「静岡時代ベスト版」 (2016-06-03 18:00)
 禅問答のように難解な物語の紡ぎ方〜静岡時代42号「静岡時代の未来予測」より (2016-05-31 18:00)
 文学が先か?音楽が先か?「音」から育てる物語〜静岡時代42号「静岡時代の未来予測」〜 (2016-05-24 18:00)
 使われるかもしれない“いつか”のためにアーカイブする〜静岡時代42号「静岡時代の未来予測」より (2016-05-17 18:26)


上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。
削除
モラトリアム思考論〜モラトリアムの男脳、女脳〜【3/4】
    コメント(0)