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"大学モラトリアム"の歴史とは?〜モラトリアムの男脳、女脳〜【2/4】

静岡時代12月号(vol.37)巻頭特集:モラトリアムの男脳、女脳【2/4】
たとえば、モラトリアムが「羽化過程のサナギの時代」だとすれば、大学は「繭」といえるのかもしれない。
では、静岡県の大学の「繭」はどのようにかたちづくられたのだろう。昔も今もかわらず、大学時代はモラトリアムでありつづけるのだろうか。歴史学を専門とする静岡英和学院大学の小和田美智子先生に、静岡県の大学の歴史を通して、モラトリアム時代の学生像を紐解いてもらった。



大学モラトリアムの歴史とは?〜モラトリアムの男脳、女脳〜【2/4】

■小和田美智子(おわだみちこ)先生〈写真:左〉
静岡英和学院大学 非常勤講師。専門は日本史。静岡の歴史とその変化、地域とのつながりや現代の男女関係を扱う。暗記科目と思われがちな歴史だが「考える
こと」を通して学べる授業を展開されている。

[聞き手]
■木下莉那(きしたりな)〈写真:右〉
静岡英和学院大学4年(取材当時)。本誌編集長。
大学卒業後、現在は就職先の東京で新しいスタートを切っています。

■澤村優妃(さわむらゆうひ)
静岡大学3年。本記事の執筆担当。


大学モラトリアムの歴史とは?〜モラトリアムの男脳、女脳〜【2/4】

◉いつの時代も学生はモラトリアム真っただ中

(静岡時代)大学のあり方が変わるとともにモラトリアムも変化してきたのでしょうか?静岡県に大学が生まれた歴史的な経緯を教えてください。
 
(小和田先生)まず静岡県には、現在の大学の前身となった「静岡学問所」という学校があったんですよ。明治のはじめ、江戸幕府崩壊後に駿府に移封された徳川氏を藩主とする駿府藩が、藩の建て直しや人材育成を意図して開設しました。徳川氏の駿府移封とともに、旧幕府の教育機関に所属していた学者も駿府に移住し、旧幕府の蔵書も移されました。
 
つまり、全国から集めた優秀な学者や文献が、江戸から静岡にやってきたんです。徳川の時代に脈々と受け継いできた知識が静岡に集結し、そこでは、望めばどんな人でも学ぶことができました。国内最高水準の教育が静岡県で展開されたんです。すごいでしょう!
 
でも、明治5年の学制頒布によって、教授・学生は後にできた東京大学に引き抜かれてしまったから、結局静岡学問所は廃退してしまいました。ちなみに、学問所にあった江戸幕府の旧蔵書は現在「葵文庫」と呼ばれて静岡県立中央図書館に保管されています。


大学モラトリアムの歴史とは?〜モラトリアムの男脳、女脳〜【2/4】
▲静岡大学に建つ〈静岡学問所〉跡の石碑。
大学モラトリアムの歴史とは?〜モラトリアムの男脳、女脳〜【2/4】
▲国学の他にも、伊、仏、独などの洋学も教授されていた。明治時代、文明開化のさきがけとなる学び舎でした。

(静岡時代)大学の基礎となる学問所が静岡に存在したなんて驚きです。時代も背負っているものも違うとは思いますが、約150年も前の学生にもモラトリアムはあったのでしょうか?
 
(小和田先生)どうかしら?当時は分からないけれど、少なくともモラトリアムという言葉は、私の学生時代にはなかったんです。とはいえ、私が大学生の頃は学生運動が盛んな時代で、みんなでよく意見を出し合って真剣な話し合いをしていました。サークル活動でも人生について考える機会は頻繁にありましたね。だから、「モラトリアム」という言葉はなかっただけで、当時の学生も同じだと思います。
 
私も本当にたくさん悩んで挫けて、それでも挑戦しました。当時、女性が大学に通うことは今のように当たり前ではなかったし、戦後だったから、金銭的な問題も大きかった。なんとか両親を説得して行かせてもらっていましたし、必死でしたよ。


大学モラトリアムの歴史とは?〜モラトリアムの男脳、女脳〜【2/4】

(静岡時代)確かに学生運動はモラトリアムです。でも今はありません。なぜでしょうか?
 
(小和田先生)静岡の学生に限らず学生全体に言えることですが、「考える」ことをしなくなってきていると思います。なぜなら大学の制度が変わったからです。昔は、大学受験は試験が二回行われていて、一期校がだめだったら二期校、というようにチャンスが二回ありました。それが共通一次試験になり、今では全国統一のセンター試験一本に絞られた結果、どれだけ考えられるかよりも、どれだけ良い点が取れるかで比べられてしまいます。いろんな知識が暗記になって、考えさせる問題が少なくなりました。でも、はっきりと伝えておきたいのは、それがモラトリアムにおいても重要な「考える力」を低下させてしまうことです。歴史だって暗記ではないですよ。これは声を大にしていいたいです。そもそもなぜ歴史を勉強すると思いますか?


(静岡時代)過去を知ってこれからの未来に活かすため、ですかね。
 
(小和田先生)そう。今、自分たちが生きている世の中を知るために、歴史の中から事象と、そこに関わった人の「考え方」を学ぶ必要があるんです。そもそも大学はこういうことを学ぶ場でなくてはならないと思うけど、今はそこも変わってきていると感じます。「何年に何があって、誰がどんな政治をした」ではなく「何故そうしたか、なぜそう考えたのか、誰が関わってどんな過程を経て、その結果になったのか」を知ることが重要です。
 
大学は能動的に自由に、自分の望むことを学ぶ場です。そういう意味で、サークル活動などはみんなで意見を出したり、考えたりする良い機会だけど、今はそうやって友達同士で意見を出し合うことって少ないでしょう?


大学モラトリアムの歴史とは?〜モラトリアムの男脳、女脳〜【2/4】

(静岡時代)大学だけでなく、学外や家でもほとんどないですね。だから、将来や自分について、一人で悩んでしまう人もいれば、逆に全く考えない人もいます。
 
(小和田先生)原因は少子化だと思います。一人の子供に対する親や周りの大人の数が増えましたよね。昔は兄弟も多いから、自分から主張しないとほとんど何も実現しなかったし、なんでも一人で考えていたものです。
 
私自身、5人兄弟の末っ子だったので、上の人たちの様子をみて、先まわりして危険が及ばないようにし、生きる力が知らず知らず身についていたんです。逆に、今は大切にされすぎて、自分から何かを発信しようとする子がいなくなっている気がします。
 
モラトリアムの時期に悩んで、親との対立を経験する子は将来困らないと思いますよ。なぜなら、衝突の中で次を、次をと考えて主張するからです。その親に認められたり、理解されようと必死になる経験は、社会に適応するために必要な力になるでしょう。


(静岡時代)親との対決、私もしました!では大学というモラトリアムは、今後どのような場になっていくのでしょうか?
 
(小和田先生)大学は自分自身の人間性を深める場です。では、どう深めるかだけど、一つは「恋愛」です。みんな恋愛してるでしょう?恋愛は自分を見つめる意味でも良い経験になります。相手の理想に応えるために自分を抑えて苦しくなったりしてね。自分が大きく変わるタイミングになりやすいと思うし、私はそうでした。私の場合、結婚しても続けられる教師を進路に選んだから、特に社会に出ることに対して壁はなかったの。仕事を続け、男性との関係も、いい関係とはどうあるべきか、など考えました。

大学モラトリアムの歴史とは?〜モラトリアムの男脳、女脳〜【2/4】
 
少し話は逸れるけど、どの大学でも学生全体に目を向けると、男性と女性が持つ気質はかなり違うんです。面白いですよ。男性は、アンテナがいろいろなところに張られているけど、女性は一つのことしか見れない。あちこちに意識を飛ばして、一見すると不真面目に思える男性は、実は多面的に物事を捉えているんです。生きていくうえで大切な力ですよね。一方、女性はこれと決めたら一点集中型だから、授業中もノートを写すことに夢中になりがちです。真面目には見えるけど、学びとしてはプラスαが中々ないんですね。だから成績は女性の方がいい気がするけど、全体を見た時に、やはり男性の方が視野が広いところはあると思います。両方の側面が重要だから、やっぱり恋愛も大事よね。
 
本当の自分を見つけるために、勉強して恋愛して、社会にふれて困難を乗り越えていく。一見無駄なように思える4年間だけど、人間的に成長できる貴重な時間、それがモラトリアムです。それは今も昔も、これからも変わらないでしょう(了)(取材・文/澤村優妃)


■このお話をもっと深く掘り下げたいひとへ小和田 美智子先生からのオススメ本!
・小和田美智子 .『 地域と女性の社会史̶駿遠地方を中心に』. 岩田書院. 2012



モラトリアムの男脳、女脳シリーズ
【1】モラトリアムって一体なんだ? http://gakuseinews.eshizuoka.jp/e1479019.html




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