特集
「昔の景色、今の景色、これからは景色はどこへ行くの?【2/2】」
連続特集:「景色は変わるけど〜街の景色のうつろいから考える、静岡と街とぼくと、過去現在未来考」(2)
今の景色に関心を持つには僕たちが知っていることはあまりにも少ない。
まずは過去、未来を知ることが、今を見る手がかりになる気がする。
←前記事「今の景色、これからの景色【第1回】」http://gakuseinews.eshizuoka.jp/e1001456.html
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——今後は他の地域でも区画整理が進んでいくのでしょうか?
(根本先生)進んでいかないと思います。浜松の事例は最後の区画整理とも言われているくらいで、1000億円以上かかっているんですよ。静岡県は、1人あたりの県民所得が2006〜2008年の3年間、全国第3位で経済的に豊かだったので、最近まで都市の再開発ができていました。他の都市の場合、こういうことは1980年代のバブルの時期に終わっているんです。
そもそも区画整理は土地が値上がりすることを前提としています。どういうことかと言うと、道路造りは地主さんが協力して、自腹で行います。地主さんたちが元々持っている土地を少しずつ削って造るので個々の持つ坪数は減ってしまいますが、道路がある土地の方が単価は高くなるため財産は減りません、というのが区画整理の仕組みです。経済的に豊かだった頃は区画整理が行われてきましたが、今はデフレなので道路があっても土地の単価が変わらないどころか、むしろ下がってしまうんです。だからもう区画整理はできませんし、造ってしまったものをメンテナンスしていくことが主体になります。
——全体としては、あまり大きな変化はなくなるのですね。先生のおっしゃるカオスな街並みや景色は、これから私たちが大人になっていくうちに、どのように変わっていくのでしょうか?
(根本先生)日本は急速に人口減少しているので、昔のように『壊れてもいいから新しく作り直そう』という活力はなくなって、どちらかというと全般的に保守的になっていくのだと思います。以前だったら20年くらいで更新したものが、あと10年持たせようか、というような傾向です。保守的といえば、ヨーロッパは帝国主義の時代に植民地経営で荒稼ぎして繁栄した頃の統一された街並みがそのまま維持されています。街並みの8割〜9割は19世紀末〜20世紀までの伝統的なものが残っていて、第2次世界大戦で街が吹き飛ばされても、その吹き飛ばされたレンガを拾って再構築してきたくらいです。これまで100年変わらなかったので、今後も100年変わることもないだろうとも言われています。

ただ一方で、日本の場合は何を維持していけばいいのか分からないんじゃないかな。市民1人1人が自分の大事にしたいものを大事にして、今の形でメンテナンスモードに入ってしまうと、混乱した町並みは当分の間そのままになる可能性が高い。自分たちの町の『参照すべき』共通の基準が見えない中で、表面的な都市景観の規制や計画を策定するのはナンセンスだと思います。ヨーロッパにはその基準が強く残っています。よりよい都市景観を実現させたいのならば、高度経済成長の時のような大規模な都市開発に頼るのではなく、どんなスタイルが自分たちの町の『基準』となるかを、市民主体に粘り強く議論して合意形成をはかる必要があると思います。目を見張るような画期的な改変は難しくなりますが、逆に自分たちの町がどんなスタイルであることが共通の理解とプライドになるのか、市民がじっくりと考えるいいチャンスかもしれません。
——今までは景色が変わってしまったことに寂しさを感じていましたが、自分たちの「基準」やスタイルにも目を向けて、自分たちの町を考えていきたいなあと思います。ありがとうございました。
(取材・執筆/山本菜奈)
根本敏行先生
静岡文化芸術大学 文化政策学部 文化政策学科教授
専門分野は都市経営、
環境マネジメント。
ヨーロッパ文化とサブカルチャーをこよなく愛しているそうです。
難しいお話の途中でついついマニアックな話をしてしまうギャップが素敵です。
今の景色に関心を持つには僕たちが知っていることはあまりにも少ない。
まずは過去、未来を知ることが、今を見る手がかりになる気がする。
←前記事「今の景色、これからの景色【第1回】」http://gakuseinews.eshizuoka.jp/e1001456.html
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——今後は他の地域でも区画整理が進んでいくのでしょうか?
(根本先生)進んでいかないと思います。浜松の事例は最後の区画整理とも言われているくらいで、1000億円以上かかっているんですよ。静岡県は、1人あたりの県民所得が2006〜2008年の3年間、全国第3位で経済的に豊かだったので、最近まで都市の再開発ができていました。他の都市の場合、こういうことは1980年代のバブルの時期に終わっているんです。
そもそも区画整理は土地が値上がりすることを前提としています。どういうことかと言うと、道路造りは地主さんが協力して、自腹で行います。地主さんたちが元々持っている土地を少しずつ削って造るので個々の持つ坪数は減ってしまいますが、道路がある土地の方が単価は高くなるため財産は減りません、というのが区画整理の仕組みです。経済的に豊かだった頃は区画整理が行われてきましたが、今はデフレなので道路があっても土地の単価が変わらないどころか、むしろ下がってしまうんです。だからもう区画整理はできませんし、造ってしまったものをメンテナンスしていくことが主体になります。
——全体としては、あまり大きな変化はなくなるのですね。先生のおっしゃるカオスな街並みや景色は、これから私たちが大人になっていくうちに、どのように変わっていくのでしょうか?
(根本先生)日本は急速に人口減少しているので、昔のように『壊れてもいいから新しく作り直そう』という活力はなくなって、どちらかというと全般的に保守的になっていくのだと思います。以前だったら20年くらいで更新したものが、あと10年持たせようか、というような傾向です。保守的といえば、ヨーロッパは帝国主義の時代に植民地経営で荒稼ぎして繁栄した頃の統一された街並みがそのまま維持されています。街並みの8割〜9割は19世紀末〜20世紀までの伝統的なものが残っていて、第2次世界大戦で街が吹き飛ばされても、その吹き飛ばされたレンガを拾って再構築してきたくらいです。これまで100年変わらなかったので、今後も100年変わることもないだろうとも言われています。

ただ一方で、日本の場合は何を維持していけばいいのか分からないんじゃないかな。市民1人1人が自分の大事にしたいものを大事にして、今の形でメンテナンスモードに入ってしまうと、混乱した町並みは当分の間そのままになる可能性が高い。自分たちの町の『参照すべき』共通の基準が見えない中で、表面的な都市景観の規制や計画を策定するのはナンセンスだと思います。ヨーロッパにはその基準が強く残っています。よりよい都市景観を実現させたいのならば、高度経済成長の時のような大規模な都市開発に頼るのではなく、どんなスタイルが自分たちの町の『基準』となるかを、市民主体に粘り強く議論して合意形成をはかる必要があると思います。目を見張るような画期的な改変は難しくなりますが、逆に自分たちの町がどんなスタイルであることが共通の理解とプライドになるのか、市民がじっくりと考えるいいチャンスかもしれません。
——今までは景色が変わってしまったことに寂しさを感じていましたが、自分たちの「基準」やスタイルにも目を向けて、自分たちの町を考えていきたいなあと思います。ありがとうございました。
(取材・執筆/山本菜奈)
根本敏行先生
静岡文化芸術大学 文化政策学部 文化政策学科教授
専門分野は都市経営、
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ヨーロッパ文化とサブカルチャーをこよなく愛しているそうです。
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タグ :景色は変わるけど
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Updated:2013年02月14日 特集