キャンパス情報
せんせいの引き出し〜浜松学院大学現代コミュニケーション学部 土倉英志先生〜
静岡時代秋号(vol36):せんせいの引き出し
大学の先生は、その専門分野で研究を重ねてこられた「知識の泉」です。先生方の知恵・雑学は大学生はもちろん、これから進学を考えている高校生にとっても驚くこと、興味深いことがたくさんあるはず。しかし、先生とお話をする機会ってなかなかありません。そこで、大学も学部も超えたオール静岡県の大学の先生による、web上講義を開講。今回は、社会心理学を専門に研究されている浜松学院大学の土倉先生にお話してもらいました。

■『<未知>との遭遇』
心理学の研究手法のひとつに実践研究がある。これは文字どおり「実践」と「研究」を兼ねるものだ。私はこれまでに「赤ちゃんふれあい体験ワークショップ」(以降、WSと略す)や心理学をテーマとするサイエンスカフェといった実践研究に取り組んできた。ここではWSの話をしたい。
WSは研究室の先輩や研究仲間と一緒に取り組んだもので、地域の保育園と協同で実施した。保育園に来ていたのは0歳から3歳の乳幼児であり、WSの参加者はおもに小・中学生であった。参加者は、保育士のアドバイスやサポートのもと、赤ちゃんをだっこしたり、離乳食や食事のお手伝いをしたり、外に散歩に出かけたりと乳幼児とふれあう体験をした。
参加者と保育士のやりとりを見ていると、保育士がたくさんの働きかけをしていることがわかる。まず、説明をしてくれる。赤ちゃんの様子、他の赤ちゃんとの違い、離乳食を食べるときに使うスプーンの形、等々。つぎに、デモンストレーションをしてくれる。だっこの仕方、おむつ交換の仕方、散歩のときの手のつなぎ方、等々。こうしたやりとりのなかで参加者は保育や育児について理解を深めていく。
生態心理学者エドワード・リードの見いだした知見のひとつに「充たされざる意味」
(unfi lledmeaning)がある。たとえば、石版にキリル文字で文章が刻まれているとする。残念ながら私はそれを理解したり、読んだりすることはできない。しかし、その石版をみて「記号が刻まれている」ことは知覚できる。これはとても重要なことだ。
リードはつぎのように言う。「あなたの言葉と身ぶりが何を意味するのかがわからないうちはそこに何らかの意味があることさえも理解できないとしたら、ぼくはあなたが意味することをいつまでたっても学習できないだろう」。仮に石版を見て、文字を石についた傷と知覚したら(少なくとも読解に向けた)行動は起こらない。「充たされざる意味」の知覚は、意味の探索行動へとつながりうる。何かを「充たされざる意味」と知覚することが学びにとって大切であることがわかる。
話をWSにもどそう。参加者はWSに参加するまえから「保育や育児の意義」を頭ではわかっていた。しかし、活動の表面をながめただけではわからないことは多々ある。たとえて言えば「充たされざる意味」は、保育士のサポートのもとで保育体験を行なうことで、すこしずつ「充たされて」いく。言い換えると、保育という活動に参与できるようになっていく。
また、一見したところ目をひくことのない保育士の行動が、意味を持っているらしいことに気づく。つまりそこに「充たされざる意味」が潜んでいたことを知る。保育士が赤ちゃんの背中をポンポンすることに注意が向くといったように。先達と活動をともにすることの意義はこうした点にこそある。こうした議論は心理学のモーツァルトとも称されるヴィゴツキーの研究とも関連するが、そろそろ紙幅が尽きたようだ。(了)
土倉先生イチオシの授業!
大学の先生は、その専門分野で研究を重ねてこられた「知識の泉」です。先生方の知恵・雑学は大学生はもちろん、これから進学を考えている高校生にとっても驚くこと、興味深いことがたくさんあるはず。しかし、先生とお話をする機会ってなかなかありません。そこで、大学も学部も超えたオール静岡県の大学の先生による、web上講義を開講。今回は、社会心理学を専門に研究されている浜松学院大学の土倉先生にお話してもらいました。

■『<未知>との遭遇』
心理学の研究手法のひとつに実践研究がある。これは文字どおり「実践」と「研究」を兼ねるものだ。私はこれまでに「赤ちゃんふれあい体験ワークショップ」(以降、WSと略す)や心理学をテーマとするサイエンスカフェといった実践研究に取り組んできた。ここではWSの話をしたい。
WSは研究室の先輩や研究仲間と一緒に取り組んだもので、地域の保育園と協同で実施した。保育園に来ていたのは0歳から3歳の乳幼児であり、WSの参加者はおもに小・中学生であった。参加者は、保育士のアドバイスやサポートのもと、赤ちゃんをだっこしたり、離乳食や食事のお手伝いをしたり、外に散歩に出かけたりと乳幼児とふれあう体験をした。
参加者と保育士のやりとりを見ていると、保育士がたくさんの働きかけをしていることがわかる。まず、説明をしてくれる。赤ちゃんの様子、他の赤ちゃんとの違い、離乳食を食べるときに使うスプーンの形、等々。つぎに、デモンストレーションをしてくれる。だっこの仕方、おむつ交換の仕方、散歩のときの手のつなぎ方、等々。こうしたやりとりのなかで参加者は保育や育児について理解を深めていく。
生態心理学者エドワード・リードの見いだした知見のひとつに「充たされざる意味」
(unfi lledmeaning)がある。たとえば、石版にキリル文字で文章が刻まれているとする。残念ながら私はそれを理解したり、読んだりすることはできない。しかし、その石版をみて「記号が刻まれている」ことは知覚できる。これはとても重要なことだ。
リードはつぎのように言う。「あなたの言葉と身ぶりが何を意味するのかがわからないうちはそこに何らかの意味があることさえも理解できないとしたら、ぼくはあなたが意味することをいつまでたっても学習できないだろう」。仮に石版を見て、文字を石についた傷と知覚したら(少なくとも読解に向けた)行動は起こらない。「充たされざる意味」の知覚は、意味の探索行動へとつながりうる。何かを「充たされざる意味」と知覚することが学びにとって大切であることがわかる。
話をWSにもどそう。参加者はWSに参加するまえから「保育や育児の意義」を頭ではわかっていた。しかし、活動の表面をながめただけではわからないことは多々ある。たとえて言えば「充たされざる意味」は、保育士のサポートのもとで保育体験を行なうことで、すこしずつ「充たされて」いく。言い換えると、保育という活動に参与できるようになっていく。
また、一見したところ目をひくことのない保育士の行動が、意味を持っているらしいことに気づく。つまりそこに「充たされざる意味」が潜んでいたことを知る。保育士が赤ちゃんの背中をポンポンすることに注意が向くといったように。先達と活動をともにすることの意義はこうした点にこそある。こうした議論は心理学のモーツァルトとも称されるヴィゴツキーの研究とも関連するが、そろそろ紙幅が尽きたようだ。(了)
◉文献
リード,E.S.細田直哉(訳)2000
アフォーダンスの心理学,新曜社.
リード,E.S.細田直哉(訳)2000
アフォーダンスの心理学,新曜社.
土倉英志(つちくらえいじ)先生
浜松学院大学 現代コミュニケーション学部准教授。
首都大学東京大学院人文科学研究科博士課程単位取得退学。
専門分野は社会心理学・認知心理学・質的心理学。創造性、日常における学び、観光といったテーマについて研究を行っている。最近は研究室の学生と共に、地域の人と心理学をテーマに話をする「サイエンスカフェ」を開くことに取り組んでいる。
・http://tsuchilab.hatenablog.com
・大學ニュース:[サイエンスカフェ] http://gakuseinews.eshizuoka.jp/e1355620.html
浜松学院大学 現代コミュニケーション学部准教授。
首都大学東京大学院人文科学研究科博士課程単位取得退学。
専門分野は社会心理学・認知心理学・質的心理学。創造性、日常における学び、観光といったテーマについて研究を行っている。最近は研究室の学生と共に、地域の人と心理学をテーマに話をする「サイエンスカフェ」を開くことに取り組んでいる。
・http://tsuchilab.hatenablog.com
・大學ニュース:[サイエンスカフェ] http://gakuseinews.eshizuoka.jp/e1355620.html
土倉先生イチオシの授業!
「恋愛の心理学」(浜松学院大学 地域共創学科 専門教育科目/若尾良徳先生)
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【2016年】静岡県内大学の夏季オープンキャンパス情報!
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SNAP from campus〜浜松ホトニクス株式会社〜
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Updated:2016年04月21日 キャンパス情報