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男は現実を、女は夢を見る?〜モラトリアムの男脳、女脳〜【4/4】

静岡時代12号(vol.37):モラトリアムの男脳、女脳【4/4】
行動や思考法など、正反対の考え方をもつ男と女ですが、モラトリアムの時期を過ごす大学生は大学生活において一体どんな違いがあらわれるのでしょうか?今回は、県内の男女学生2人がモラトリアムを扱った映画「フランシス・ハ」を鑑賞し、物語・登場人物に対するそれぞれの意見を交わしました。静岡産業大学で発達心理学を専門とする菊野春雄先生にもご協力いただき、男女の考え方からモラトリアムの男脳、女脳を徹底分析しました。



男は現実を、女は夢を見る?〜モラトリアムの男脳、女脳〜【4/4】

■菊野春雄(きくのはるお)先生
静岡産業大学 経営学部 教授。
専門は発達心理学、認知心理学。大人と子どもの違いや子どもの物事への認識の仕方について研究。40 代でモラトリアムを達成した時、「世界は自分のためにあるんじゃないか」とすら思えたそうです。

[聞き手]
■木下莉那(きしたりな)
常葉大学4年(取材当時)。本誌編集長。
大学卒業後、現在は就職先の東京で新しいスタートを切っています。

■野村和輝(のむらかずき)
静岡大学4年(取材当時)。本記事の取材・執筆者。

[取材協力]
■静岡シネ・ギャラリー
静岡市葵区にある映画館、静岡シネ・ギャラリーではサークル等でのグループ鑑賞や上映会企画にも対応しています。お気軽にご相談ください。
TEL:054-273-7450
http://www.cine-gallery.jp/


◉ハンパな私で生きていく。映画『フランシス・ハ』

対談の題材となるのは、モラトリアムを代表する映画『フランシス・ハ』。
親友とルームシェアをして、楽しい毎日を送る27歳の見習いモダンダンサー・フランシス。しかしダンサーとしても中々芽が出ず、彼氏と別れて間もなく、親友との同居も解消となる。もがいて壁にぶつかりながらも、自分の人生を見つ直し、前向きに歩き出していく青臭く美しい物語です。




男は現実を、女は夢を見る?〜モラトリアムの男脳、女脳〜【4/4】

◉いつも夢見るのは女たち?

女子学生代表・木下:『フランシス・ハ』は特に女性のモラトリアムを描いた作品です。私は何度失敗しても、夢や自信を持ち続けるフランシスに共感しました。私も大学時代というモラトリアムの間、とにかく行動主義でしたから。

男子学生代表・野村:でも現実的な判断ではないところも多々ありましたね。

木下:物語冒頭の「彼氏と同居をするか、親友とのルームシェアを継続するか」の選択を迫られたシーンとか?

野村:フランシスは迷った結果、親友とのルームシェアを選んだけど、僕だったら二つ返事で同居します。フランシスは見習いダンサーで、定職がありませんから。彼氏に養ってもらうこともできたはずだし、その方が堅実です。

木下:私はフランシスと同じです。結婚も意識しはじめる年齢だけど、親友も大事です。それに今、同居を解消したら、親友を困らせてしまうじゃないですか。考えられませんね。

菊野先生:意見が割れましたね。ちなみに僕は野村君と同意見です。男性は「I」、女性は「We」で物事を考えるんですよ。男性は自分第一、女性は人との関係を大事にするということです。

木下:確かに自分だけのことを考えれば、彼氏も好きだし、同居したい気持ちは山々です。だけどできません。

菊野先生:考え方の構造が違うんです。男性は問題解決型の思考をします。自分が直面した問題に対して合理的な行動を取るのです。女性は情緒型の思考、周囲の人間との関係を重視する行動を取ります。発達心理学者バロン=コエーンの言う、システム脳と共感脳です。

男は現実を、女は夢を見る?〜モラトリアムの男脳、女脳〜【4/4】

男は現実を、女は夢を見る?〜モラトリアムの男脳、女脳〜【4/4】

◉男がひとつずつ積み上げるものを、女は同時に複数積み上げる

木下:では、物語中盤でフランシスが見習いダンサーもクビになり、勤めていたバレエカンパニーの事務員をやらないかと誘われた場面がありましたよね?フランシスはダンサーにこだわって、「別会社から誘われてるわ」なんて嘘をついてまで断っていましたが、男性からしたら考えられないのですか?

野村:夢も大事だけどまず職探しです。

木下:私はぶれずに夢を追う姿に共感できます。今しかできないものなら尚更です。

菊野先生:男女における生き方の文化の違いですね。男性は段階型で、女性は同時並行型なんですよ。女性は自分が将来のことを思案したとき、考えなければいけないことがたくさんありますよね?

木下:仕事、結婚、出産でしょうか。あとフランシスもそうでしたけど、結婚して子供もできて、落ち着いてきた周囲の人間を見て嫉妬したり、焦ることはあるかも。

菊野先生:女性の場合、例えるならいくつものブロックを並行して積み上げなければいけないわけです。一方男性は、一つのブロックだけを満足するまで積み上げたらその次を積み上げる、という考え方をします。

木下:つまり男性の方が最短ルート?

菊野先生:モラトリアムは、自分が何者かという答えを見つけるために悩み苦しむ期間です。比較的、男性の方が楽に過ごせるでしょうね。女性はより辛い期間になるかもしれません。

木下:迷うことがこんなに辛いとは……。決めてくれたら楽なんですけど。

菊野先生:本当に自由とはある面で幸せで、ある面ではかなりつらく苦しいですよね。ですが、モラトリアムは人間にしかないものです。悩み苦しんだことも大人になるための立派な糧になるんですよ。

男は現実を、女は夢を見る?〜モラトリアムの男脳、女脳〜【4/4】

◉「もう死んでもいい」。——それがモラトリアムの真のおわり

野村:大人といえば、物語中盤で怖かった場面があります。職も失い、親友とも確執が生まれ、自分の居場所を見失ってしまったフランシスが、同世代の友人達と会食している場面です。友人への嫉妬や自分への焦りから、周りの話に合わせられなかったり、感情的になってしまったりして周囲から冷めた目で見られますよね。「社会に出たら、フランシスみたいな人はやっていけないのか」と怖くなりました。僕自身は、自分らしさを貫こうとするフランシスの必死さが伝わってきて、応援したくなったんですけどね。

菊野先生:私もかわいらしいなあと肯定的に捉えていましたよ。

木下:え!私は違います。空気が読めないフランシスに呆れてしまいました。周りを困らせるし我慢するところだと思います。抑圧している自分を見ているようで痛々しかったですね。

野村:男女両方の考え方を知っておいた方がよさそうですね。でなければ無意識のうちに身を滅ぼしそうです……。何をもって大人というのでしょうか?

菊野先生:端的に言えばモラトリアムを達成するということです。私は40代までモラトリアムでしたよ。モラトリアムが終わったかと思うと、第二、第三と次のテーマが出てくるんです。アイデンティティが変わっていくんですよ。40代になってようやく「これでいいんだ」と思えるようになりました。

野村:仕事におけるアイデンティティの確立など、男性の本当のモラトリアムは少し遅いのかもしれませんね。

菊野先生:どう生きていくかを死に物狂いで考えて、納得できるようになると、今までの世界が急に素晴らしく思えて、人生を初めて楽しいと実感しましたね。ですが、モラトリアムの達成は終了ではありません。「これでもう死んでもいい」そう思えた時が、モラトリアムの終了です。(取材・文/野村和輝)

■このお話をもっと深く掘り下げたいひとへ菊野春雄先生からのオススメ本!
・サイモン・バーロン=コーエン.『共感する女性脳、システム化する男脳』. NHK 出版. 2005





男は現実を、女は夢を見る?〜モラトリアムの男脳、女脳〜【4/4】

[取材協力]
■静岡シネ・ギャラリー
静岡市葵区にある映画館、静岡シネ・ギャラリーではサークル等でのグループ鑑賞や上映会企画にも対応しています。お気軽にご相談ください。
TEL:054-273-7450
http://www.cine-gallery.jp/


モラトリアムの男脳、女脳シリーズ
【1】モラトリアムって一体なんだ?→ http://gakuseinews.eshizuoka.jp/e1479019.html
【2】"大学モラトリアム"の歴史とは?→ http://gakuseinews.eshizuoka.jp/e1479882.html
【3】モラトリアムの思考論→ http://gakuseinews.eshizuoka.jp/e1480895.html




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