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日常遣いの食のおもてなし極意

人と人とを繋いでくれるのは「食事」だけではない。その場の空気、互いの所作も人と人とを繋ぐ空間を演出する。「おもてなしする側」から見た食と人とのつながりって?老舗寿司屋「寿し政」を訪ねると、そこには店主と客の境が次第になくなっていく空間がありました。

日常遣いの食のおもてなし極意

■山岸紀昭さん《写真:左》
寿し政高松店を切り盛りしている親方。
以前は東京の病院で栄養士として勤務していた経歴を持つ寿司職人。「子供が1 番大切なお客」と仰る親方。お店には子供が遊べるおもちゃや絵本が用意されていました。

■小泉夏葉《写真:右》
静岡大学 理学部3年。本企画編集長。
「どんな食べ物を食べたら人の心をいい方向に動かせるのか」という食の意味性を探るために企画立案。当初は食だけに視点を置いていたが、取材を通じて、空間や人にも着目してテーマを掘り下げていった。

■山口奈那子
常葉大学4年。本記事の執筆・撮影者。



日常遣いの食のおもてなし極意

◉静大近くのお寿司屋「寿し政」高松店
静岡市駿河区にあるお寿司屋さん。店内はお一人様でも気楽にお食事ができる温かな雰囲気。「1人のお客さんの後ろには何人もの人がいる」。この想いのもと、二代目山岸紀昭さんは全てのお客さんを大事にしている。店頭には狸の置物があり、子供からも「狸のお店」と呼ばれ親しまれている。



この空間に入った瞬間、家族になってしまう


誌編集長小泉(以下小泉):寿し政さんはいつから静岡にお店を構えているんですか?

寿し政山岸さん(以下山岸さん):私は二代目で、先代は長野県出身です。65年ほど前に静岡で「寿し政」を始めました。自分が高松店を継いでからは36年が経ちますね。静大が大岩キャンパスから今の静岡キャンパスに移る前からやっています。

小泉:36年……、親方一人で切り盛りしているんですか?

山岸さん:今現在は奥さん(女将)とアルバイトの子も一緒に切り盛りしています。一生懸命働いていてくれるので、安心して任せられます。36年やっていると、幼少期に店に来ていた子が親になって子供を連れて来たり、家族の人生を見守れるのが楽しいですね。

小泉:店内を見渡しても、適度な広さと照明、堅すぎない安心できる雰囲気ですよね。食事をする場づくりにおいて心がけていることはありますか?

山岸さん:お客さんの好みはある程度把握しています。お客さんが嫌いな物や病院で止められている物があったら覚えて絶対に出しません。言われなくてもお客さんの好みのものを出して、お客さんが安心して座っていられる状態を作るようにしています。
 
他にも仕事柄、街中だと落ち着いて食事ができない人もいますよね。うちは少し街中から外れた場所にあるので一人の人間としてリラックスしながら食事や話ができます。仕事の話は全然しません。いくらどこかの社長だろうと、うちに来たら「お客さん」だから。食事するのに立場は関係ありません。


日常遣いの食のおもてなし極意


日常遣いの食のおもてなし極意


小泉:噂によると、寿し政さんは「マイ箸」制度があるそうですね。

山岸さん:はい。中学生のアイディアから始まって他のお客さんにも広まりました。今でも定着しています。

小泉:ざっと棚を見渡しても、お皿だけで何種類もありますね。使用する食器や料理を出す順番にもこだわりや意味はありますか?

山岸さん:食器類は年二回、岐阜の問屋さんが新作を持ってきてくれます。盛りつけを想像しながら、「色が冴える食材には合うな」などバランスを考えて購入します。ちなみにお寿司は桶に大きな役割があるんですよ。

小泉:桶には大きなエビが描かれていますね。

山岸さん:寿司がのっている状態では絵柄が見えませんが、食べているうちに絵が出てきて、桶一つでお客さんが喜んでくれます。良い桶を使えばお客さんも気づいてくれるし、古い桶を使えばなんとなく安っぽく見えます。


日常遣いの食のおもてなし極意
▶︎寿し政は食品がガラスのケースに入っているので、お客さんも自分の目で食材を確認することができます。高校生の男の子には、ネタのサイズを大きめに。年配のお客さんにはネタを半分に切る。そこにも親方の優しさが隠れています。


カウンターで寿司を食す

山岸さん:こちらが寿し政のランチ。

小泉:赤身、エビ、サラダの軍艦巻き、いか、タコ、たまご……盛り沢山です。お味噌汁まで(食後のフルーツまたはコーヒー付)!いただきます!


日常遣いの食のおもてなし極意
▶︎写真は本日頂いた寿し政のランチメニュー(1,000 円)。ちなみに寿し政は学生アルバイトも多い。「給料は俺が出すものではなく、俺がお客さんから預かって渡すお金だよ」という親方の考えの下、お客さんを大事にする精神は従業員全員に受け継がれている。


日常遣いの食のおもてなし極意


山岸さん:お寿司はお任せで頼まれた時は味が淡白な物から濃い物の順に出して、味に変化を出します。お客さんが飽きないよう食事を出すリズムを大切にしています。特に静岡は食材が豊富な土地で、美味しい物を食べることに慣れていますからね。

小泉:そうなんですね。実はカウンターのあるお寿司屋さんに来るのは今日が初めてなんです。緊張していたけど、落ち着く雰囲気や美味しいお食事に気持ちもほぐされます。

山岸さん:よく赤身や白身のネタから食べ始めろと言うけど、そういうルールは拘らなくていい。ただ、知っておいて得する知識はあります。サラダやウニのような軍艦巻きは、逆さにすると具がひっくり返りますよね。その時にガリを箸でつまんでハケ代わりにして醤油をつけると具を綺麗に載せたまま食べられます。食べやすいですよ。

小泉:(実践中)。おお〜。

山岸さん:あと、お刺身についている菊の花。みんな食べないけど、菊の花びらを一つ摘まんで醤油の中に入れると、薬味にもなるし毒消しの役割も果たしてくれます。もし就職をして社長と食事に行った時にも、これをやったら一目を置かれるはずです(笑)。つまもそうだけど、お皿の上にのっている物は全部食べられるんですよ。


日常遣いの食のおもてなし極意


日常遣いの食のおもてなし極意


小泉:ただの飾りだと思っていました……。私は食には人と人を繋ぐ役割があると思っています。おもてなしをする側から見て、親方は食にどのような役割があると思いますか?

山岸さん:やはり食事を通して会話が成立している場面はありますね。例えば、顔見知りではないお客さん同士で、「これ美味しいよ」ってお勧めしてくれることがあります。あと、カウンターだからこそ生まれるお客さんとの会話。レストランと違って、カウンターの店は料理が美味しいだけではなく会話も楽しくある必要があります。だから自分も色んな情報を蓄えておく必要がある。例えば相撲に興味がなくても、お客さんに結果を聞かれたら答えられるようにしておきます。

小泉:食事と店の空間そのものが出会いの場になっているんですね。

山岸さん:ここの空間に入った瞬間にみんな家族になっちゃうんですよ。だから、ある程度の常連さんになると「いらっしゃいませ」じゃなく、「おかえりなさい」なんだよね。帰りは「いってらっしゃい」と言います。お客さんとの繋がりが深くないと商売は成立しません。美味しい物を食べて味わえる、なんとも形容し難い幸せを届けていきたいですね(了)


■寿し政 高松店
静岡市駿河区高松1-23-6
☎ 054-237-6066
しずてつジャストライン宮竹から徒歩約5 分。カウンター、お座敷、宴会場、駐車場有。

日常遣いの食のおもてなし極意


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静岡産業大学経営学部/高城佳那先生

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