静岡の街から
ハタチの社会見学〜鳥羽漆芸〜

【パリ万国博覧会御用達・江戸時代から続く駿河漆】
静岡の伝統工芸の一つ、駿河漆器。江戸時代初期には伝統産業として確立し、幕府の保護・奨励も受けました。開国後はパリ万国博覧会に出品され、世界から賞賛されています。
駿河漆器の伝統を守り、加えて現代人の生活にあった新しい取り入れ方を提案しているのが鳥羽漆芸です。初代鳥羽清一氏が発案した「金剛石目塗」は漆器製作に砂を使う独自の技法。最近は漆芸とガラスを組み合わせ、漆のワイングラスを製作しています。
そんな伝統と新しさが混在する工房で、今も生きる伝統工芸の秘密に迫ります!
[取材・執筆:森下華菜(静岡大学)]
[取材・撮影:服部由実(静岡時代)]
駿河漆器の制作過程をご紹介!
(1)生漆

▲漆の木から採取した生漆です。採取したばかりは乳白色ですが、空気にふれるとすぐに酸化し茶色、こげ茶色に変化していきます。
(2)鳥羽漆芸の乾燥花瓶

△鳥羽漆芸の乾燥花瓶は荒縄を鉄棒に巻き、おおよその形を作り、その上に土を塗り型を作ります。縄は最後に取り出し、再利用します。
(3)丈夫な下地づくり

△金剛石目漆は漆に川の砂を混ぜることで熱や水に強い下地をつくります。これを型に1ミリ塗り、一晩置きます(6回程繰り返す)。
(4)研磨

△漆と砂を混ぜたものを乾かしては、毎回、砥石で研磨します。何処も同じ厚さに仕上げるためには砂と漆の調合比率が重要です。
(5)続・研磨

△素地を木で作った漆器の場合は、漆を塗ってすぐ砂をまき、一晩おいた後、また漆を重ねます。その後、砂の層を砥石で研磨します。
(6)乾燥

△下地に漆を塗った後、塗った漆は「風呂」で乾かします。ここでは漆の酸化を助長する酵素の最適温度、湿度で管理されています。
(7)最終研磨

△下地作業の最終研磨工程。柄をつける場合は下地の凹凸をあえて残すことで自然な柄を浮き出させます。無地の場合はつるつるに。
(8)漆塗り

△下地に漆を塗る工程です。手前の電熱器で温め、柔らかくなった漆を包んで絞り、出てきた漆を使います。また、漆は埃を嫌うので、作業は個室で行われます。


漆芸の中で最も特徴のある道具は刷毛です。漆芸で使われる刷毛は鉛筆のような構造をしていて、ちょうど鉛筆の芯のように刷毛の中に長い毛が入っています。漆器職人は自分の好みの硬さになるように毛の長さや先端の角度を決めて削ります(刷毛は用途にあわせ何十種類を使い分け)。ちなみに刷毛は女性の髪の毛を使用しています(枝毛、切れ毛は除いた選りすぐりの直毛に限る)。主にアジアの女性の毛が使われますが、最近では西洋人のより柔らかな金髪でも作られているそうです。
(9)静岡炭

△漆が塗りあがったら研磨炭でさらに研ぎます。研磨炭は「静岡炭」と呼ばれ静岡の産物でした。しかし、現在県内に残る原木はわずか。
(10)柄出し

△柄を出す場合は赤い漆を塗り、次に茶色の漆を2回重ねます。これを研ぐと下地で残した凹凸の高いところが先に削れて赤い模様が!
(11)続・柄出し

△漆を重ね研いでいきます。手前が漆の塗りあがりを研いだもの。奥の研ぐ前の状態に比べ、艶が増しています!
(12)装飾

△漆器の装飾には貝が使われることが多いです。青や緑の部分のみが使われ、赤い部分はあまり使われないそうです。
(13)金箔による装飾

△ワイングラスの装飾に使われている生の金箔。向こう側が透けてみえるほど薄い!金の含有量が多いと、光に透かしたときに緑に見えます。
(14)うるし和紙グラス

△鳥羽漆芸の『うるしの和紙グラス』は、ガラスと漆で金箔をサンドイッチのように挟みます。ガラスの透明性を最大限に利用し、華やかな和紙が漆器に彩りを添えます。
社会見学インタビュー:鳥羽漆芸 3代目/鳥羽俊行さん

流行にのる伝統工芸 金剛石目塗りの付加価値
駿河漆器の産業としての発祥は徳川家光の時代に遡ります。久能山東照宮や浅間神社の造設の際に全国から静岡へ職人を集めました。その後、大勢の職人が気候や食に恵まれた静岡に残り、伝統工芸として脈々と受け継がれてきました。パリ万博にも出品され、注文が殺到。しかし徐々に粗悪品もつくられ、信頼を失ってしまいます。その後は、反省し誠実な漆器造りを行い、現在に至っています。
鳥羽漆芸の金剛石目塗は漆と砂を混ぜ下地をつくる独特の技法。祖父が大正時代に舗装されていない道路を漆下駄で歩いた際に、つま先部分にめり込んだ砂粒が硬かった事にヒントを得ました。金剛石(ダイヤモンド)のように硬い石目肌の塗り物という意味です。
15年程前の赤ワインブームに乗って漆のワイングラスを製作しました。それが今では注文も多く、静岡市の逸品にも選ばれています。元々は二代目の父と半分冗談で話したのがきっかけ。一般に伝統工芸は世の中の流れと関係のないところにありますが、当時ちょうど発売されたブラウン管のiMacに便乗して5色展開にしました。喜んで選んでくれる人が多かったですね。
私たちは消費者のニーズをつくる事を大切にしています。何に塗ったら漆が生きるか、今までにないものが生まれるか、漆芸の幅を広げ現代の生活の中で使ってもらいたいですね。
■鳥羽漆芸
鳥羽俊行さん
大正13年に創業した鳥羽漆芸の3代目。
職人歴は30年ほど。幼い頃から仕事場で遊んでおり、武蔵野美術大学 造形学部 工芸工業デザイン学科を卒業後、職人の道へ。大学時代に、人と違うことの大切さを学んだそう。
◎住所 : 静岡市駿河区大坪町1番3号
◎HP:http://toba-japan.com
鳥羽俊行さん
大正13年に創業した鳥羽漆芸の3代目。
職人歴は30年ほど。幼い頃から仕事場で遊んでおり、武蔵野美術大学 造形学部 工芸工業デザイン学科を卒業後、職人の道へ。大学時代に、人と違うことの大切さを学んだそう。
◎住所 : 静岡市駿河区大坪町1番3号
◎HP:http://toba-japan.com
取材後記:森下華菜(静岡大学)

漆器と聞いて想像するものは重箱や箸でした。だから、鳥羽漆芸さんのショールームで色鮮やかなグラスに漆器があてがわれた作品を見たときは衝撃を受けました。
それまで伝統工芸とは自分の生活とはどこか離れた場所に存在するものと捉えていました。使用者のことを考えた作品の数々に、伝統工芸とは作り手だけでなく使う人がいて初めて守られていくものだと感じました。金剛石目塗特有の石のザラザラした感じや研ぎ終わったあとのつるつるした感じ、漆器を直接手にしなければ味わうことのできない感触です。毎日の生活に、漆器を取り入れたいです!
もう一度歩きたくなる、「エッシャーの世界」〜静岡市美術館〜
働く私の静岡時代〜株式会社 サンロフト〜
JR三島駅〜日本大学三島キャンパス〜極私的、古地図研究会
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Updated:2016年02月04日 静岡の街から