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ちょっと賢い!?お寺の味わい方

連続特集:「おてらいく おてらいふ」④
立派な外装や表情豊かな仏様たちの姿。それらをみているだけでも"お寺"の魅力は十分感じられますよね。しかし、私たちの知らないお寺の味わい方が、まだまだあるようなんです。今回はお寺の"みてくれ"だけではない、その背景に迫ったお話を、静岡県立大学で美術史を専門に研究している立田洋司先生にお聞きしました。芸術学からオリエント史まで網羅する立田先生御教授の、「脱マンネリ化おてらいふ」への道!!先生曰く、「日本の寺とは西洋の“世界初の大学”より古い歴史のある最高学府だった!?」

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ちょっと賢い!?お寺の味わい方

●立田洋司先生
静岡県立大学 国際関係学部 国際言語文化学科 特任教授。専門は比較文化、美術史、芸術学、オリエント学と幅広く、現在は県大が位置する谷田を文化の発信地とする活動「ムセイオン静岡」に携わっている。


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寺は学問の故里。大学のはじまりでもある

――私はお寺の醸し出す雰囲気が好きなんですけれど、それだけではない、ちょっと賢いお寺の味わい方を教えてください。

(立田先生)まず、寺を学問の故里と捉えてみたらどうかな。日本での大学のはじまりは寺院に設けられた学問所だったんだよ。西洋史だとイタリアに大学がつくられたのが始まりなんだけど、実はそれよりも前に学問所はできている。昔だと留学に行く身分はお坊さんが多かったんだよ。また、寺は文化の原点でもある。わかりやすい例を挙げると、日本の食文化で精進料理があるでしょう? これはほとんど植物だけを使うんだけど、そこから肉の味を出したりする不思議な料理なんだ。仏教の教えにある無駄な殺生を好まないというものに準じて作られたんだよね。世界でも注目されていて、フランスの一流シェフもわざわざ日本まで食べに来るほどなんだ。

そして、お坊さんの生活は今でも夜の9~10時に寝て、朝4時には起きるサイクルなんだよ。曹洞宗の大本山の永平寺だと、どんなことがあっても10時には就寝して3時20分には起床しているらしい。起きるとすぐに掃除をし、心身を鍛えた後に一汁二菜または一汁三菜のご飯を食べるという昔ながらの生活を続けているんだ。このように寺にはたくさんの文化が根付いているから、色んな切り口で見ることができるんだよ。

ちょっと賢い!?お寺の味わい方

――なるほど、学問の故里、文化の原点という点からお寺を観るとたくさんの発見ができそうですね。とはいえ、お寺というと「京都」「奈良」という印象が強いのですが……。

(立田先生)実は、静岡には「三山」と呼ばれる場所があるんだよ。この三山は全国にあるんだけど、三山があるところは文化地域とされているんだ。袋井市にある「遠州三山」が静岡を代表する寺と言えるだろうね。

まず、法多山尊永寺。これは高野山真言宗の別格本山で、歴史のある寺なんだ。ここは厄除け観音がよく知られているね。寺の言い伝えによると、725年に聖武天皇の命で観音様が降りてくる聖地を探し求めた行基という人物が建立したらしい。行基は日本史では当時の文化を形づくったとても重要な人物で各地に伝説が残っているんだよ。実は、静岡には行基に関連する寺がたくさんあるから、そこに絞って寺を巡ってみるというのもひとつの切り口といえるね。

次に医王山油山寺。この寺も行基によって701年に創建されたと言われている。油山寺って珍しい名前でしょ? これは行基が山から油が出てくるのを見たことが由来なんだよ。油だから石油かもしれないけど、もしかしたら温泉かもしれないとも言われているよ。それに、油山寺には「るりの滝」にまつわる言い伝えもある。749年に孝謙天皇が眼病治癒を願って、この滝で眼を洗浄したところ、全快したそうなんだ。このエピソードから目の守護・眼病平癒の寺として有名なんだよ。

三つ目は、萬松山可睡斎。この寺の名前の由来はとても興味深くてね。徳川家康が幼い頃、武田信玄の軍から逃れ、父と共に匿われた寺なんだ。後に家康がお礼の為に寺を訪れたとき、居眠りする和尚を見て、「和尚我見ること愛児の如し。故に安心して眠る。我その親密の嬢を喜ぶ、和尚、眠るべし」と言ったと言われている。それ以降、和尚は「可睡和尚」と呼ばれ、寺の名前も東陽軒から可睡斎になったそうなんだ。面白いでしょ? 宿坊や精進料理もあるから泊まってみるといいよ。

ちょっと賢い!?お寺の味わい方

焦点が合ってくると、今までに吸収した知識も違って見えてくる

――遠州三山の存在を初めて知りました。エピソードも面白いものばかりですね。

(立田先生)静岡には興味深い寺がたくさんあるからね。他にも島田市にある智満寺は奈良時代につくられた寺なんだけど、源頼朝をはじめ、今川氏、徳川氏などに厚く保護されてきたんだ。本堂は立派な茅葺屋根で、京都の高台寺に代表されるような桃山文化の影響をみてとれる。堂内には、秘仏の本尊千手観音立像があるんだ。これは六十年に一度、御開帳されていて、次は2054年に見れる。実はこの六十年という期間も珍しくてね。普通は三十三年、五十年、百年といったサイクルが多いんだよ。私の考えではあるんだけど、智満寺の六十年というのは中国から入ってきた五行説の「還暦」から来ているんじゃないかと思うんだ。あと、毎年1月7日の夜には、四百年以上の歴史を持つ、鬼払いという行事が行われている。これは、赤、白、青の三匹の鬼が暗闇から現れ、それらを読経によって退治することで、一年間の無病息災を祈るんだ。とても寒いだろうけど、行ってみるといいよ。

あとは日本平付近にある鉄舟寺。今まさに話題の富士山や三保の松原、清水港などの眺望が素晴らしいんだ。エピソードも色々あってね。鉄舟寺の山号は、補陀落山。これは、仏教文化にとって重要な「補陀落」から来ている。補陀落は、極楽を求めて、一人だったり、集団だったりで船に乗り海に出ること。大抵、難破して死んでしまうんだけどね。東洋や仏教文化を語るには欠かせないことだから調べてみると面白いと思うよ。

歴史的に見て重要な寺は、JR清水駅と興津駅の間にある清見寺。ここは江戸時代に徳川氏の保護を受け、朝鮮通信使や琉球使の接待の場として使われたんだ。駿河湾が見える非常に風光明媚な場所にあるんだけど、接待に使われた他の寺も同じように景色が美しいんだよ。そして、鎖国している時も東海道が通っているここには通信使が来ていたんだ。出島でのみ、交易を行っていた時期にも朝鮮通信使とは交流があって、一回の通信使の訪問の為に百万両もの金額が使われたんだよ。

ちょっと賢い!?お寺の味わい方

――静岡にも歴史がある魅力的なお寺がたくさんあるんですね。先生が思う奈良や京都のお寺と静岡のお寺の違いはどこでしょうか?

(立田先生)奈良や京都は、昔の政治の中心になった場所だから、寺のスケールが違うね。それに比べると静岡はもっとローカルな感じかな。歴史の長さを考えると、静岡に寺が出来始めたのは、聖武天皇の命で国分寺、国分尼寺がつくられた頃だから、奈良や京都にはかなわないよね。その国分寺、国分尼寺も駿河と遠江国につくられたんだけど、残念なことに、駿河はどこに寺があったのかわからなくなってしまっているんだ。今の静岡高校のある辺りか静岡大学の辺りだと言われてはいるんだけどね。ただ、江戸時代になると、人や物が行き交う東海道が通っているということもあって、清見寺のように政治的に重要な寺もでてくるようになったね。

――なんだか静岡のお寺の印象が変わりました。お寺から時代背景や文化、歴史、地域性を見つけ出していくことで味わい方も変わってくるんですね。

(立田先生)そうだね、最初にも言ったけど、寺は学問の故里だから、大学生である君たちには是非とも足を運んでもらいたい。それに寺から日本の歴史や文化を知ろうとする際に、一歩踏み込んで、他国と比較する、比較文化的な視点でも見るといいんじゃないかな。日本の教育だと世界史と日本史を別々に教えてしまうから、そういう視点で寺をみると、今までに吸収した知識もまた違って見えてくると思うな。

■このお話をもっと深く掘り下げたいひとへ立田洋司先生からのオススメ本!
・『古寺巡礼』和辻哲郎著.岩波文庫. 1979.
・『十一面観音巡礼』白洲正子著. 講談社文芸文庫. 1992.


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ちょっと賢い!?お寺の味わい方

話し手:●立田洋司先生
静岡県立大学 国際関係学部 国際言語文化学科 特任教授。専門は比較文化、美術史、芸術学、オリエント学と幅広く、現在は県大が位置する谷田を文化の発信地とする活動「ムセイオン静岡」に携わっている。

聞き手/執筆:●静岡県立大学4年/須藤千尋
聞き手   :●静岡大学(浜松キャンパス)4年/天野和佳子





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