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せんせいの引き出し〜日本大学国際関係学部 平野明彦先生〜

せんせいの引き出し(静岡時代4月号:vol.30)
様々な専門分野で研究を重ねてこられた「知識の泉」をもつ大学の先生たち。日本大学国際関係学部で思想学を研究している平野明彦先生は、普段どんなことを考えているのでしょうか?本企画は、大学も学部も超えたオール静岡県内大学の先生たちのコラムを届けていきます。先生方の知恵・雑学は大学生はもちろん、これから進学を考えている高校生にとっても驚くこと、興味深いことがたくさんあるはず。講義では中々わからない先生の一端を、少しだけのぞいてみましょう。


平野明彦(ひらのあきひこ)先生
日本大学国際関係学部国際教養学科教授。現代思想や哲学、倫理学を担当。専門は、現代ドイツを中心とした実存思想。静岡(三島)に奉職して、今年は15年目の節目の年。百年以上の歴史を持ち、5年に一度世界中の〈哲学者たち〉が一堂に会する「世界哲学会議」が、8月にギリシャのアテネで開催される。この歴史ある会議へ参加するため、現在、発表原稿の準備に追われている。



せんせいの引き出し〜日本大学国際関係学部 平野明彦先生〜



■人生最後の日に聞きたい曲

いわゆる〈芸術〉と称するものに興味を持ち始めたのは、いつの頃からだろうか。
物心ついた時から、親父のかけるバッハやチャイコフスキーのレコードに慣れ親しんでいた僕がクラシック音楽に目覚めたのは、多分中学生になってからで、その頃ランボー詩集などを愛読し、詩人の真似ごとをしていたことは間違いない。
この頃の記憶にあまり自信はないのだが、確かなことは、中学の時すでに僕が小説や詩や絵画や音楽を愛好する〈夢想家〉だったことだ。大学に入って東京で一人暮らしを始めると、芸術づけの生活を思う存分満喫することができた。暇さえあれば神田の古本屋や上野の美術館に、さらに東京中のコンサートホールに足を運んだ。なかでも東京文化会館は、以前、友人の作曲家中村寛のオペラの初演に立ち会ったこともあって、今なお特別の場所である。

好きな同時代の作曲家と聞かれたら、ルイジ・ノーノや武満徹の名を挙げるのに吝かでないが、人生最後の日に聞きたい曲となると話は別で、マーラーの交響曲以外には考えられない。
若い頃、迷ったり悩んだりした時に救いを求めたのはいつもベートーヴェンの音楽で、シンフォニーは言うまでもなく、後期のピアノソナタと弦楽四重奏曲は、僕にとってまさしく残された最後の聖域だった。愛も正義も、何もかも当てにはならないけれど、少なくともここには確かな、信頼できる何かがある。宗教も思想もインチキな代物ばかりだけれど、ここには揺るぎない真実がある、と。それに対して、マーラーの曲には、そうしたすべての権威や指針が失われた世界が驚くほど正確に描かれている。しかも、まるで鏡を見るかのように、そこに等身大の自分自身が映し出されているのである。あるいはニーチェ風に、あぶり出されたのは〈神なき世界〉と言った方が分かり易いかもしれない。いや、むしろ人間存在に固有の不安と言うべきだろうか? 

こうした実存的な不安や絶望は、19世紀以降の西洋絵画の幾つかに共通するモチーフの一つである。ゴッホの『烏の飛ぶ麦畑』やムンクの『叫び』は余りに有名だが、個人的にはルオーやクリムトやシーレの苦悩と祈りに、より親近感を覚える。実際、19世紀末にクリムトとマーラーが同じヴィーンの空気を吸っていたことは偶然ではない。
神なき時代にあって、「隠れたる神」を希求し続けたマーラーの苦悩と祈りは、とりわけ『大地の歌』と『交響曲第9番』、そして未完の遺作となった『交響曲第10番』に見ることができる。かつてニーチェが「ニヒリズムの時代」と呼んだ20世紀始めに書かれたこれらの作品のもつ時代意識は、21世紀の今もなお、少しも色褪せることはない。まるで、昨日書かれた遺言であるかのように。
なかでも、常にヨーロッパ文明を意識し、ヨーロッパに拘り続けたマーラーが、李白や王維の漢詩に着想を得て作曲した『大地の歌』は、殊のほか異彩を放っている。もう15年以上前になるが、晩年マーラーが創作のために過ごした南チロルのトーブラッハを訪れたとき、およそヨーロッパらしからぬ景観に遭遇し、初めて少しだけ謎が解けたように思われた。




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